日本のどこかで解体屋として働くS.H氏は、アンダーグラウンドな職人の世界をサバイブしてきた、知る人ぞ知る人物。本連載は、そんな人生の中で起きた、声を大にして言えない刺激の強すぎるエピソードをエッセイ形式で伝えていきます。第二回は、S.Hさんがテレビに映っちゃった!(もちろんモザイクありで)時の話。
illustration KTYL specialthanks Ikke
気づいたらチェーンソーをブンブン振り回してた
昔あったニュース番組の話をしようか。俺が25歳くらいの時に、ある大物ニュースキャスターがメインキャスターやってた番組に映ったことがあって。
まず、映ることになった経緯から話した方がいいよね。当時、大阪のある地域一帯を再開発する話が進んでて、1年につきアパートを120棟壊すような、大規模な解体現場にかかわってたんだ。そもそも、なんで開発するかっていうと、アパートの建物の所有者が変わったタイミングで”土地を売る”って決めたみたい。でも、いきなり勝手に決めたもんだから、土地の所有者とか住人とも色々トラブルになっててさ。
たとえば、そこに住んでいた人は強制的に立ち退きになるでしょ?基本的にはみんな立ち退き料もらって出て行くんだけど、中には出て行かない人もいてさ。こっちからしたら建物を解体してても住んでいる人がいるもんで、その部屋の壁一枚残して解体してたわけ。そしたらその住人が弁護士雇って裁判になったりして、それがニュースになったんだよ。
で、冒頭に話したニュース番組のカメラマンとか報道陣が現場まで来ちゃって。「土地の所有権をめぐる闇を暴く!」みたいな特集だったらしい。でもさ、その人たちは勝手に現場に入ってきてカメラ回してるんだ。作業してるこっちからしたら気分も悪いし、邪魔じゃない?現場には外国籍の作業員も多くて、体格のいいアフリカ人、ペルー人、韓国人、メキシコ人、フィリピン人とかがいたんだけど、みんなでバール持って「入ってきたら殺すぞ」とか言ってたよ(笑)。ちなみに俺はチェーンソーをブンブン振り回しながら威嚇してた(笑)。そんなことやったらいけないんだけどね。
そしたら当時の嫁から電話かかってきてさ、「あんたテレビに出てるよ!」とかいうわけ。後で見たらもちろんモザイクはかかってるんだけど、完全に俺なんだよね(笑)。その危険すぎる中継が終わった後に、メインのニュースキャスターが「日本にこんな会社があるんですか」とか言って。重機でカメラを壊すそぶりとかもしてたんだけど、コメンテーターが「こんなやつに重機に乗って欲しくない」とかも言ってたよ。
ふざけるなって話で、まずこれってうちの解体屋が悪いんじゃなくて、土地と建物の所有者と、住人の問題だよね。解体を委託されてる俺らは仕事をしてるだけだし、勝手に現場に入ってきたのはどっちだよって。しかもその時、テレビがそういう悪態ついてるところだけ切り抜いて使ってるのがよくわかっちゃった。それ以来そいつらが出てる番組は一切見てないね。