この焼き鳥屋さんは、ただの”焼き鳥を買う場所”じゃなく、地元の人にとっての癒しの場になっている。パチンコ屋の前に止めた店の前からは、「今日はツいてない」とか「いつものある?」なんて声が聞こえてきて、つい話したくなる店員の赤池さんのアットホームな人柄も魅力のひとつ。軽トラ=相棒に乗って、毎日違う場所へ足を運ぶ営業スタイルは、向こうから会いに来てくれるみたいに思えて、なんとなく嬉しい。さあ、お店の暖かい雰囲気も最高な、絶品の焼き鳥を食べに行こう。
Photograph Ataro Dojun model Takumi Akaike
SHOGUN
(焼鳥屋)
トラック内は焼き鳥の煙と熱がこもり、耐えられないほど熱い。
学校から逃げたからこそ
より一層高まるプライド
埼玉県のパチンコ屋の駐車場にポツンとショップを構え、あたり一体には焼き鳥の香ばしい匂いが漂う。パチンコやスロットを打ち終えたお客さんが、小腹を満たしに続々と集まってくるのが、埼玉をメインに移動販売で焼き鳥を販売している焼き鳥将軍だ。パッと見のお店の雰囲気は、昭和のムードを感じさせる赤い提灯もあって、お祭りでよく見る露店なんかに近い。ただ、そんなノスタルジックな空気感が魅力の一方で、少しコワモテの人がやってる(一概には言えないけれど)イメージがある人も少なく無いだろう。そんな中「ニュアンスが難しいんですが、あくまで”テキ屋”ではなく”焼き鳥屋さんでいたい”っていう想いがあって。こういうお店って、犯罪しちゃった人とかヤーさん関係のイメージがある人も多いみたいなので、言葉使いはかなり気をつけてますね」と、スタッフとして6年働いている赤池さんが教えてくれ、世間のネガティブなイメージとのギャップを感じながら、それを埋めようとする意識が感じられた。
そんな話を聞くと、なぜわざわざこの仕事を選んだのだろう?というシンプルな疑問が浮かぶはず。「自分は大学に通っていたんですが、留年が重なって中退してしまって。それで仕事無いじゃ困るからどうしようってなった時に、親戚がこの会社の社長だったんです。俺も飲食店には興味があったんで、じゃあやってみようってなった感じですね」。いま大学や専門学校を出て、新卒で企業に入社するという流れが一般的な中、赤池さんの境遇は少し違う。結果的にやりたい仕事はしているけれど、ある意味学校という場から一度逃げているから、これ以上もう逃げられないという意識が。「やっぱり大学やめてるんで、後がない感じはありますね。そもそも、地元のツレの中で大学行ったのが自分だけだったんです。みんなが仕事してる時に俺は遊んでたから、そごとに関しては絶対中途半端にできないっていうか」。だから、その分仕事の責任感はハンパじゃないし、話していても”上司や会社への愚痴”みたいな、誰かのせいにしたようなセリフは一切出てこない。好きな仕事をしているのにファッションで仕事をしているような人や、肩書きとかお金とかばかり気にして、何者にもなれてないような人もいたりいなかったりする中で、仕事へのプライドを持って働く赤池さんから学ぶことは、きっとあるはず。
毎日着る黒Tと黄色い手が
ハードな環境を映し出す
焼き鳥屋の仕事は、ハードだ。夏場は屋台の中に熱気がこもって時には50度を超えたりするから、倒れたり体調が悪くなってしまうこともしばしば。「水は一日4Lくらい飲む日もありますね。だけどトイレには一回も行かないみたいな。全部汗で出ちゃってるので」。また、普通じゃ目を開けていられない煙の中でも、焼き加減を常に確認しておく必要があるから、絶対に焼肉から目をそらさないのもカッコいい。そんな焼き鳥の面白さは赤池さん曰く、同じ肉でも焼く人によって味が変わるということ。「焼くこと自体は誰でもできるんですけど、考えてみると奥が深いというか。素材によって焼き方や焼き加減が違ったり、それがそもそも人によって違ったり。だから自分の焼き方が美味しいって思ってくれる人もいれば、そうじゃ無い人もいると思います。ただ、自分はお客さんを見て味を変えるようにしていて。例えば高齢の方だったら塩薄めにしてとか。だからお客さんをなるべく覚えるってことがとても大切ですね」。ここの焼き鳥は良く居酒屋にあるグニャっとしたモノではなく、外側がパリッとしていて中がジューシーで最高に美味しい。
また、飲食店だから作業着みたいなユニフォームは無いけれど、いつもお店に立つ時に来ているTシャツにはマイルールがある。「この仕事はとにかく暑いから、Tシャツを着ているんですけど、色は必ずブラックです。どうしても汚れが目立ってしまうので」。レモンサワーのポップなTシャツが陽気な人柄を表している気がする。また、店内のBGMではいつもお気に入りの曲が流れ、KOHHや般若などのHIPHOP、ONE OK ROCKなどを流している(取材当日はその時再燃していたSLAM DUNKのテーマ曲でした)。さらに、洗っても落ちないという、手に染み込んだ黄色いタレが仕事へのプライドの証。もちろん辛いことばかりじゃなく、仕事をしていればやりがいを感じる瞬間がある。「こうゆう屋台って、意外と目につかないじゃ無いですか?奇抜でも今っぽいおしゃれな感じでも無いし、さっと来てパッと買って帰るただのお店って感じだけど、中にはちゃんと見てくれてる人がいて。寒い中頑張っててすごいね、とか、中には独立する時に投資したいとか言ってくれる人もいて、そういう見方をしてくれるのは嬉しいです。あとはやっぱり”美味しい”って言ってくれることが一番かな」。ちなみにな話、気になる給料面に関しては「同い年のサラリーマンより、ちょっとだけ高いくらいです」とのこと。
“自分だけがいい”ではなく
家族への想いを大切に
そんな赤池家には、昨年2月に第一子が誕生(おめでとうございます!)。それに伴い、やはり仕事へのモチベーションも大きく変わったのだそう。「最近は仕事したいけど、早く帰って家族に会いたいって気落ちがあって(笑)子供は俺が働かなかったら食べ物食えないじゃないですか?だから働く目的が変わったかもしれません」。若いうちに子供ができるって相当大変だと思うし、なかなか選べない人生の選択だけど、子供が生まれてからは他にも変わったことがあるのだそう。「親戚とか自分たちの親が集まって、ご飯とか食べてる時が楽しいんですよ。一番楽しいのは自分の子供を親戚に見せて、親戚がすごい笑ってるのとか。俺ってどちらかというと家族で集まる時って、留年するとか借金するとか、暗い話が多かったので。みんなが笑って集まってるってことがなかったんです。もちろん、子供ができたからといって、自分自身がすごくなったとかでは無いんですけどね」。
ここで最後に仕事の話に戻ると、もともといまの職場で働き始めたのは、独立して飲食店を経営するため。「いまはパートさんの管理とか、仕入れとかもやらせてもらってます。学生の頃は速攻独立してやろうとか思ってたけど、実際現実はそう甘くないなって痛感してますね(笑)」。地元が山梨だという話を聞いていたから、いずれは地元で居酒屋を開くのかな?と思っていたけれど、そうではないらしい。
「地元に1店舗は友達とかが行るように開きたいんだけど、そこを本拠地にはしたくなくて。実際地方で店を開くってなかなか難しいんですよ。あくまで、自分の家族が食っていける、従業員の家族も養っていく、というところが重要なんです」。話を聞けば聞くほど家族や仲間に対する愛が感じられて、だからこそあのお店に人が集まってくるのだと思う。”良いお店”の条件って、内装が綺麗とか料理が美味しいとか色々あると思うけれど、一番大切なのは会いに行きたくなる人がいる事だと思う。それを改めて教えてくれた焼き鳥将軍には、今日もたくさんのお客さんで賑わっているに違いない。